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第七話 三人麻雀
野本ナツミは父親の影響で麻雀ゲームを中学の頃からやっており普段はケータイで『雀ソウル』というゲームをやっているようだった。とくに好んでやっているのは三人麻雀東風戦で、理由を聞いてみると「早いから」だそうだ。これはベテランあるあるで、どアマチュアの参加率がリアルとは比較にならないほど高い『インターネット』という環境だと1ゲームは長すぎて疲れてしまうという事がある。なので打ち慣れた人達はネットでは東風しかやらないというのはよくあるパターン。待ってられないのだ、テンポが遅くて。それに付け加えて三人麻雀を好むということはそれ即ち最速の勝負。
つまり、猛者が辿り着く最後の地のひとつが三人麻雀東風戦なのである。そこを棲家とする野本ナツミはそれだけで(只者ではなさそうだ)とユウに直感させていた。
「雀ソウルは私もサトコもダウンロードしてあるわ。丁度いい、今からその普段からやってるって言う三人麻雀東風戦とやらを一緒にやってみて野本さんのその腕前を見せてもらいましょう」
「いいですよ! じゃあ友人戦卓立てますので、参加してください!」
ノモノモ(野本ナツミ)準備OK!
ゆーちゃん(佐藤ユウ)準備OK!
サトリ(浅野間サトコ)準備OK!
──対局開始!!──
東家サトリ
南家ノモノモ
西家ゆーちゃん
『北を抜くわ』
『北を抜くわ』
開局早々サトリが抜きドラの北を2枚抜いた。しかし、その後サトリからの攻めはなくゆーちゃんがリーチしてツモあがる。
『ツモ!』『リーチツモピンフドラ1』3900点だ。この三人麻雀はツモ損というルールを採用しており普段4人麻雀だと子供2人から1300貰えたので1300+1300+2600=5200だった
137.サイドストーリー2 厳重注意!中編 花岡がアクアリウム御徒町店に慣れてきた頃、数名の花岡を狙った男性スタッフがいた。それ自体は当たり前のことで。本当のことを言えばほとんどの男性スタッフが花岡に好意を抱いていたはずである。そのくらい花岡は魅力的な女性であった。 そうなると、今度お茶しようなどの利口なやり方をするやつはいい、常識人として好意を伝えてくるには構わないが、ここアクアリウムにはさすがはアクアリウムというかなんというか、知性の足りない雑魚どもがウヨウヨいた。つまり、上司である能登(のと)からの過度なボディータッチ。セクハラである。 「ちょっと! やめてください!」「なんだよ、そんなに大騒ぎすることないだろ」「なんだよじゃないですよ。毎日毎日、何回言わせるんですか! 本当に嫌なんです! いいですか、下着を着用しているであろう位置に同意なしに触れたらそれはもう性犯罪です!」「ちょっとふざけただけじゃないか」「ちょっとふざけて触っていいものじゃないんですよ。そんな事もわかりませんか」 こんな軽々しくセクハラが行われるような環境は狂っている。(もうやだ。……お父さんに会いたい) そんな逃げたい気持ちも当然あるが、それは違う、私が変えなければ!「能登マネージャー。あなたのこと、必ず訴えます。私は断固戦いますからね」────── それから数日。 花岡が調べて分かったことだが、ここアクアリウムの従業員はかつて木村紗耶(きむらさや)という女メンバーに無理矢理飲酒を勧めて酔わせて性行為をするという正真正銘の性犯罪。
136.サイドストーリー2 厳重注意!前編 花岡縁(はなおかゆかり)はスラリとして美しく、可愛らしい。若くて、一生懸命な女子メンバーだ。 彼女は学生時代に付き合っていた彼の影響で麻雀を好きになった。そして、好きが高じて雀荘で働く事に。それは幸せな仕事だった。 もちろん仕事だから疲れることもあったが仕事といいつつも麻雀を打てたし、麻雀さえしていれば時間が過ぎるのはあっという間だ。「花ちゃんお疲れ様! 今日はもうあがっていいよ」「ありがとうございます。お疲れ様です」 労働時間は短くはない。大変ではあったが花岡は充実していた。 しかしその後、ビルそのものが老朽化しているという理由からこの店はもうすぐで閉店になるのだと聞かされた。こればかりはどうにもならない。「そんなのないですよ。それじゃあさ、数ヶ月しか働けないって決まってたってこと? なのになんで私を雇ってくれたんですか」「ごめん、花岡さん。でも最後の日までお客さんを楽しませたかったし、花岡さんみたいなかわいい女の子が麻雀を好きで、ここで働きたいです。なんてこと言ってくるなんて、そんな奇跡が起きたなら雇うしかない! って思っちゃうじゃないか」「ムゥ…… そんな風に言われたら怒れませんね。ずるいです」「とにかく、ここはもう閉店なんだ。仕事覚えて楽しくなってきた所で悪いんだけど…… ホントにごめんね」「別の場所に移転するとかは考えないんですか」「探してみたけど、いい所が見つからなくてね。仕方ないから、しばらくは休むとするよ」「そ
135.第十六話 天才女流5期四天王 福島弥生(ふくしまやよい)はドッジボールでは最後まで残るタイプだった。 ぶつかりたくない。痛いのは嫌だ。 そんな事を思っていたら最後に残る、そんな子だ。 麻雀も同じで、最低限だけ、効率的な場面だけ前の方に出ていき、あとは引っ込んでいる。それでいい。それが勝てる。そう信じていた。しかし。「ツモ!」「ロン」「ロン」「ツモ」「ツモ!」(な、なんなのこの子達…… もう少し引っ込んでるってことはできないわけ? 逃げることなんて考えてない…… 何人先制されようと受けながら前進してくるじゃない。まるでカンフー。『換歩(かんぽ)の踏み込み』だわ。だめ、受け切れないっ! 私の守備力じゃもたない…… なんて、なんて女たちなのよ!) 要所要所でアガる麻雀はミサトも得意としたがミサトの打撃は打点が高いからそれも可能。しかし福島は特別高打点打法というわけではないのでこうも受けていては持ち点が足りなくなるのだ。(ダメだっ…… 私も手を出していかないと)フゥ、フゥ(やだな、いつのまにか呼吸が荒くなってる…… この子たちと打ってるとやたら疲れるな) 普段やらないスタイルを強要されたことで疲労が溜まる福島。しかし、やらなければジワジワと削られて消耗するだけ。肩で息をしながらも勝つ可能性に賭けて前に出る。「ロン」(なんなの! もうー!)「12000」
134.第十伍話 戦闘スタイル 成田メグミは喜んでいた。(この20人しかいない女流リーグであの子たちに当たらないで済んだのはツイてるわ! 今日はたくさん勝てそう) ウキウキしながら挑む。もはや対戦相手は誰でもいい。あの子たちじゃないのなら。ベテラン選手であるメグミがそう思うくらいにはカオリたちは強かったのだ。一回戦 5200放銃を3回するも跳満を3回ツモってトップ。二回戦 4000オール。2000は2100オールを決められるも18000直撃して逆転。そのままトップ。三回戦 5回も放銃しつつも親満を2回ツモで気付けばトップ。四回戦 東1局に倍満を放銃するもその後は全員にほぼ何もさせず終わってみれば圧倒的なトップ。(どうだ! 私だってあの子たちさえいなきゃ容易くトップになれるのよ!)「見てたわ、メグミ。強かったじゃない」「アカネさん!」 そこには女流Aリーグ所属の杜若茜(かきつばたあかね)がいた。「放銃が多いのは相変わらずね」「はい! あれが私の戦闘スタイルなので!」「そうね、あなたは踏み込むスタイルのプロ。1番格好いいスタイルよね。誰でも出来るものではないわ。私も尊敬してる」「尊敬なんて…… へへ。私に出来ることは接近戦なんで。相手の拳が届く位置まで踏み込むからこそ私の鉄拳が炸裂するということですね」 そう言ってメグミはグッと拳を構えて見せた。さながらインファイトを得意とするボクサーのようである。「不器用だけど強烈な。そんなあなたの麻雀にはファンも多いし、そのまま勝ち続けたらいいわ。私は女流Aで待っているから」「私はすぐにAに行きますので待たせません。きっと、かわいい後輩と一緒に、そこに行きます」
133.第十四話 麻雀AI福島弥生 3人がぶつかり合う中で1人冷静に状況を見ている者がいた。4人目の女、福島弥生(ふくしまやよい)である。 そう、今期でC2リーグに昇級した1人だ。彼女もこのゲームに参加していた。 彼女の麻雀は余計なことをやらない麻雀だった。例えば、自分が手が悪い時。それでも前に進むのが普通の考えであると言う人は多いし、それが正解かもしれないが。彼女は進まない。既にこの局の先手を取られた時の対応策に焦点を当てている。なのでいつまでは危険牌を捨て、いつから安全牌切りに切り替えるかの絶妙な使い分けが非常に上手い。 無駄な失点はしない彼女は常にトップ逆転が可能な位置に自分を置いて終盤戦のチャンス局に集中して攻めるゲームメイクを得意とした。それ以外の局はAIのように撤退をし続ける。まるで感情がないかのようだ。(福島さんか…… この人、すごいわね。大体で打ってる私とは真逆の存在だわ)《そんな事はありませんよ。あなただって充分深く考えて打っているじゃないですか。でも、確かに、この福島さんという方からは強者のオーラが見えますね》(やっぱり? 私にも緑色っぽいのがボヤ~っとだけど見えるのよ。常時オーラ纏ってる人は久しぶりに見たわ) すると福島から急に『ゴワッ!』と緑色の炎が上がる。(ように見えた) オーラを視認出来るカオリとマナミはビクッ! としてしまう。「リーチ」 福島弥生の初リーチだ。(絶対に高い……! 万が一にも放銃は出来ないな)と思って対応するカオリ。 マナミもそうは思っていたのだが……マナミ手牌二三四伍六①②③55556&nb
132.第十三話 威嚇 ミサトから満貫をアガったことにより8000加点したカオリ。それはミサトと16000点差ついたと言う事だ。それくらいは理解していた。しかし、ミサトのあの様子を見てマナミは鋭く察知していた。 おそらくミサトは選択ミスによりアガれる手を逃している。そもそも、アガれる手がきてないのにあのミサトが捨て牌3段目から放銃なんかするもんか―― と。 だとすれば、つまり12000を多分カオリが振ってたんだろう。そういう選択も可能だったと読むとカオリと24000点差つけてトップ目に立つはずが、逆に16000点差つけられてラス目になった。それはまだ東場なので順位点のことは無視するとしても、それでも上下40000点の違いがあるということ。そこにマナミだけは気付いていた。なのでこのゲームは驚異的ファインプレーをしたカオリを警戒していかなければならない! とマナミの本能が警鐘を鳴らす。 するとカオリが動き出した「ポン」 一萬のポン。そしてこの捨て牌……。カオリの狙いはおそらくチンイツだ。 既に8000加点している状態からそんな大物手を作られては決定打になってしまう。これは絶対に阻止しなければ。 カオリの下家に位置するマナミはこれを見て放置しておく程あまい打ち手ではなかった。「チー」 ⑦⑧⑨をペンチャンチー(ドラは⑧)「ポン」 西をポン 瞬く間の2副露。マナミから一気にピンズホンイツの気配が出る。カオリの思考(うぐっ……! コレはやりづらい! ピンズはドラ色だ…… ここで無視